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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1750号 判決 1980年10月30日

原告

羽毛ひとみ

被告

窪堀信雄

ほか二名

主文

1  被告らは、原告に対し、各自金四〇四万一八五三円およびうち金一三八万九〇八〇円に対し昭和四九年九月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金八八九万二七七三円およびうち金七〇四万円に対する昭和四九年九月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年九月一八日午前一一時頃

2  場所 泉佐野市高松町六八五〇番地先の信号機のない交差点(以下「本件交差点」という。)北方の道路上

3  加害車 甲車 普通乗用自動車(泉五五ふ六七九九号)

乙車 普通乗用自動車(泉五五な七四〇号)

4  運転者 被告窪堀が甲車を運転

被告田中信幸が乙車を運転

5  被害者 原告

6  事故の態様 原告は、その通園している泉佐野市立小ざくら幼稚園の七人の保母に引率されて園児約二〇〇人と共に本件交差点から約二〇メートル北方の道路右側歩道を整列して歩行し野外保育を受けていたところ、本件交差点において東から西へ西進してきた甲車と南から北へ北進してきた乙車とが衝突し、そのはずみで甲車が暴走して原告に衝突し、溝にはねとばして重傷を負わせた。

二  責任原因

1  被告窪堀について

同被告は、甲車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、また本件交差点において徐行又は一時停止を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任である。

2  被告田中信幸、田中平治について

被告田中平治は乙車を保有し、これを自己の水道工事業のためにその雇用する被告田中信幸に運転させて自己のために運行の用に供していた。被告田中信幸は、右事業の執行として乙車を運転中、本件交差点において徐行又は一時停止を怠つた過失により本件事故を発生させたものである。

したがつて、被告田中信幸は民法七〇九条により、また被告田中平治は自賠法三条、民法七一五条により、本件事故によつて原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  原告が受けた傷害

右肘関節部挫創(屈筋、血管皮膚損傷)、顔面挫創、陰部挫創、頭部打撲、腹部打撲擦過創、右肘部および陰部皮膚欠損、尿道口の狭窄、膣口の閉鎖

2  治療の経過

(一) 入院 原告は、次のとおり合計一四七日間入院して、治療した。

(イ) 市立泉佐野病院 昭和四九年九月一八日から昭和四九年一二月七日まで八一日間。

(ロ) こども病院 昭和五〇年五月二二日から昭和五〇年六月二〇日まで三〇日間。

(ハ) 香雪記念病院 昭和五三年一月一七日から昭和五三年二月五日まで二〇日間、および昭和五三年八月七日から昭和五三年八月二二日まで一六日間。

(二) 後遺症について

原告は、後遺症等級の事前認定を、自動車損害賠償責任保険難波調査事務所に申請したところ、昭和五四年一〇月二六日頃、顔面醜状は後遺症等級七級一二号に該当すると認定され、生殖器の機能障害の有無については五年後でないと診断不能とされた。

ところで、原告の下腹部等の醜状については、後遺障害等級表に例示はされていないが、その醜状は、結婚や性生活に於いて顔面七級の醜状より深刻な影響があることは明らかであり、したがつて自賠責法施行令別表備考六項「各等級後遺障害に該当しない後遺症であつて、各等級の後遺障害に相当するものは当該等級の後遺障害とする」との規定に基づき、顔面醜状と同程度の七級位に該当するものとみなされるべきである。なお、右調査事務所では本件が希有の事例である関係から、この醜状の等級認定能力を欠き、この醜状については何らの決定をしなかつたものと思われる。

3  治療費 金一一七万七〇八〇円

香雪記念病院の入院治療費合計金一五四万七七一〇円のうち金一一七万七〇八〇円を請求する。

4  付添費 金九万三六〇〇円

香雪記念病院入院期間三六日間の母親付添費一日につき金二六〇〇円の割合によるもの。

5  後遺症による逸失利益 金四五〇万円

原告の認定された後遺症は前記のとおり七級(労働能力喪失率五六パーセント)であるところ、事故当時原告は六歳で、その新ホフマン係数は一八・三八七であり、また昭和五二年女子一八歳~一九歳の賃金センサスの平均年間給与額は、金一一四万一六〇〇円であるから、その逸失利益を形式的に算出すると金一一七五万四七三五円となるが、本件後遺症の特長を考慮すると金四五〇万円が相当である。

6  入院および通院慰藉料 金二〇五万円

原告は、事故後八ケ月は、尿はたれ流しであり、四回入院しているが、最初の入院で二回手術しており、後も入院ごとに長時間を要する大きな手術をしているから、最大限の慰藉料が認められるべきである。すなわち、最初の八一日間の入院について金八〇万円、第二回目の三〇日間の入院について金三〇万円、第三回目の二〇日間の入院について金二〇万円、第四回目の一五日間の入院について金一五万円、および昭和四九年一二月八日から翌年五月二一日まで尿たれ流しで家で療養し、幼稚園に通園し、また同五〇年二月一八日から同年五月二一日まで、こども病院に週一回通院していたことについて金六〇万円の合計金二〇五万円がこの点の慰藉料として相当である。

7  顔面の醜状についての慰藉料 金四一八万円

顔面の醜状のみで後遺症七級に相当するので、その慰藉料は金四一八万円が相当である。

8  陰部、腹部の醜状の慰藉料 金五〇〇万円

陰部、腹部の醜状は、結婚や、性生活において、顔面七級の醜状より深刻な影響があることは明らかである。こんな状態を見せれば見合結婚は不可能と思われるし、さればといつて恋愛結婚で、これを隠して結婚して、初夜に至つた場合、その後の不幸は目に見えている。顔面七級の醜状はある程度化粧で隠せるし、人にそれ程不快感を与えないが、陰部、腹部の醜状は嫌悪感をおこさせる程のもので、これにより、原告は女の幸福を完全に失つたといつても過言ではない。かような事情であるから、この点の醜状の慰藉料を顔面七級より低く見積ることはできず、金五〇〇万円が相当である。

9  弁護士費用 金一四〇万円

本件事案に照らせば、損害としての弁護士費用は金一四〇万円が相当である。

四  損害の填補

原告は、昭和五五年二月二三日金四一八万円、同月二五日金四一八万円の合計金八三六万円を、顔面醜状七級の後遺症補償金として受領した。これを右三の3ないし9の合計額金一八四〇万〇六八〇円から控除すると、金一〇〇四万〇六八〇円となる。なお、右受領した金八三六万円に対する、昭和四九年九月一九日から昭和五五年三月二三日までの年五分の割合による遅延損害金は、金一八五万二七七三円となる。

五  結論

以上、被告らは、各自、原告に対し、金一一八九万三四五三円およびうち金一〇〇四万〇六八〇円に対する不法行為の翌日である昭和四九年九月一九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるが、本訴においては、原告は、被告らに対し、右のうち金八八九万二七七三円およびそのうち金七〇四万円に対する前同日から支払済まで前同割合による金員の支払を求める。

第三被告窪堀の答弁

一  請求原告一の1ないし5の事実は認める。同一の6のうち、原告を跳ねとばし重傷を負わせたのは甲車ではなく、乙車であるので、その点は否認するが、その余の事実は認める。

二  請求原因三のうち、

1の事実は知らない。

2の(一)の事実は認める。

3の事実は知らない。

4については、香雪記念病院に入院中母親の付添が必要であつたことは知らない。

5については、原告の陰部以外の醜状は右あご下部、右腕関節、左腕、右手、右臀部等である。これらの醜状を軽いものであると主張するのではないが、将来就労するに際し、減収をもたらす程のものであるとは到底断じ難いところである。

6については、治療中の慰藉料相当額が金二〇五万円であるとの点は争う。原告の請求は入院一日について一万円を請求するものであり、これが昭和四九年の事故であることを考えると余りにも高額である。

7については、金額を争う。

8については、陰部、腹部の醜状の慰藉料が金五〇〇万円に相当するとの点は争う。なお、ことの性質上、顔面等、腹部、陰部(機能、醜状)の慰藉料は綜合的に算定されるべきものである。

三  請求原因四については、原告が、後遺症補償金として、原告主張の日時に、二回にわたり合計金八三六万円を受領したことは認める。

第四被告田中信幸、同田中平治の答弁

一  請求原因一の1ないし5の事実は認める。6の事実は知らない。

二  請求原因二の事実は否認する。

三  請求原因三、四に対する認否は、被告窪堀のそれと同様であるから、これを援用する。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生について

請求原因一の1ないし5の事実は当事者間に争いがないところ、これに成立に争いのない乙第一ないし第四号証、第一二ないし第一六号証および弁論の全趣旨を併わせると、次の事実が認められ、これを覆えすのに足りる証拠はない。

1  本件交差点は、いずれもアスフアルト舗装された、東西に走る道路(以下「東西道路」という。)と南北に走る道路(以下「南北道路」という。)とがほぼ直角に交差する信号機のない交差点である。東西道路は、その本件交差点の東方部分は、幅員約六・五メートルの車道部とその南側の幅員約二・二メートルの歩道とからなり、南北道路に直角に接していて、同交差点直前の西行車道部分には一時停止の停止線が引かれており、また同交差点の西方部分は、東方部分よりやや北寄り(西方部分の南端の線が東方部分車道部のほぼ中央線に相当する。)に位置していて、歩車道の区別はなく、幅員も後記南北道路西側の側溝上では約四・六メートル、その西方では約四メートルと狭くなり、西に向つてやや右斜め方向(やや西北寄りの方向)に通じていて、西方から同交差点に入る直前の道路北端には一時停止の標識が掲げられている。次に南北道路は、歩車道の区別のない幅員約七メートルの直線道路で、その両側には側溝があり、同交差点の北方おいては、西側のそれは幅員約二メートル、東側のそれは幅員約一・二メートルである。本件交差点の南東隅には人家があるため、東方および南方から本件交差点に進入してくる場合、その南方および東方道路の見通しは悪い。

2  原告は、泉佐野市高松町所在の泉佐野市立小ざくら幼稚園の園児であるところ、事故当日は他の園児一九〇名とともに教諭七名に引率されて本件交差点の南方に所在する未広公園に行き植物採集と虫取りの園外保育を受けたうえ、午前一一時頃幼稚園に帰るため、他の園児らとともに南北道路の東側路端を北方に向かつて二列縦隊で本件交差点を横断し、その約二〇メートル北方を歩行中、後記のとおり右縦隊に暴走進入してきた乙車に衝突された。

3  被告窪堀は、本件事故の際、その所有する甲車を運転して東西道路を東方から本件交差点に向かつて時速約五〇キロメートルで進行してきたところ、本件交差点を南から北に向かつて列をなして横断している幼稚園児の集団を認めたので、時速約四〇キロメートルに減速したところ、右集団が甲車の通過を待つため横断を中断したので、一時停止することなく、そのまま進行したが、前記停止線の直前において、南北道路を南方から本件交差点に向かつて走行してくる乙車を自車の左斜め前方約一〇・六メートルの至近距離に発見し、あわてて急制動の措置をとるとともにハンドルを右に切つたが間にあわず、本件交差点の中心付近で甲車左前部を乙車の車体右側部に衝突させた。他方、被告田中信幸は、乙車を運転して、南北道路を南方から本件交差点に向かつて時速約四六キロメートルで進行してきたものであるが、東西道路から本件交差点に進入しようとする車両は停止線又は一時停止の標識に従つて一時停止するものと軽信し、東方道路の見通しが悪いのに何らその安全確認のための減速徐行をすることなく、そのままの速度で本件交差点に進入したものである。

4  右衝突の結果、甲車は、右に約半回転して、右衝突地点の北方約九メートルの南北道路東側路端の前記園児の列に、車首をほぼ北東方向に向けて突つ込み、園児二名をはねて負傷させたうえ、その前部を東側側溝に突つ込んで停車した。また、乙車は、右衝突の衝撃によりハンドルをとられ、右斜め前方に約二〇メートル暴走して前記の園児の列に突つ込み、原告ほか四名の園児をはねて負傷させたうえ、その車体右側部を南北道路東側側溝に転落させて停車した。

二  被告らの責任

1  被告窪堀について

右一認定の事実によれば、被告窪堀は、甲車を所有し、本件事故の際には、これを運転し、停止線を無視し一時停止を怠つて本件交差点に進入した過失により、乙車に衝突して、乙車を暴走させて原告をはねさせたものであるから、同被告には、自賠法三条および民法七〇九条に基づき、本件事故により原告の受けた損害を賠償する責任がある。

2  被告田中信幸について

右一認定の事実によれば、被告田中信幸は、東西道路の見通しが悪い本件交差点に、何ら安全確認のための減速徐行をすることなく約四六キロメートルの速度のままで進入した過失によつて甲車と衝突し、乙車を暴走させて原告をはねたものであるから、同被告には、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が受けた損害を賠償する責任がある。

3  被告田中平治について

前記乙第一五号証、第一六号証によれば、被告田中平治は被告田中信幸の実父で、田中水道工業所を経営し、乙車を所有していたこと、被告田中信幸は被告田中平治に雇われ、本件事故の際の乙車の運転も右業務の執行としてなされたことが認められる。右認定事実およびさきに述べたところによれば、被告田中平治には、自賠法三条および民法七一五条に基づき、本件事故により原告が受けた損害を賠償する責任がある。

三  原告が受けた傷害とその治療経過および後遺症について。

請求原因三の2の(一)の事実は当事者間に争いがなく、右事実と、成立に争いのない甲第三ないし第五号証、同第一〇ないし第一六号証、同第一九ないし第二一号証、乙第五号証、被写体が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、また弁論の全趣旨により原告代理人がその主張の日時に撮影したものであると認められる検甲第一ないし第二三号証、原告法定代理人羽毛昭一本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併わせると、次の事実が認められ、これを覆えすのに足りる証拠はない。

1  原告は、本件事故により右肘部関節部挫創(屈筋、血管、皮膚損傷)、顔面挫創、陰部挫創、頭部打撲、腹部打撲擦過創の傷害を受け、直ちに泉佐野市一〇一二市立泉佐野病院に運ばれ、事故当日である昭和四九年九月一八日から同年一二月七日まで合計八一日間同病院で入院治療した。同病院においては入院初日である同年九月一八日に応急措置的に創傷処置を施こし、次いで同年一〇月一六日に陰部の皮膚欠損が著しかつたので、右足の大腿部分の皮膚を陰部に移植する会陰形成術、植皮術の手術を施行した。

2  原告は、右泉佐野市病院を退院した後も、尿はたれ流しであり、また負傷個所の瘢痕も著しかつたので、昭和五〇年二月一八日神戸市須磨区西須磨一番地の八兵庫県立こども病院で診察を受け、暫く週一回位の割合で通院した後、同年五月二二日から同年六月二〇日まで三〇日間入院治療した。同病院においては、原告に対し、外尿道瘻(尿失禁)、排尿障害、外陰部瘢痕拘縮変形、膣前庭癒着、右肘窩部瘢痕拘縮変形との診断をなし、右入院期間中、恥丘上部膀胱切開により尿路変更し、外陰部拘縮切除、尿道外口再建を行い、植皮により創面閉鎖の手術を行い、更に術後恥丘上膀胱瘻二次閉鎖を行なつた。右手術後においても、膣前庭癒着は除去されるも瘢痕拘縮による膣口狭窄は強く、恥丘部瘢痕拘縮、右肘瘢痕拘縮が残つたが、尿のたれ流し状態はなくなつた。

3  次いで、原告は、昭和五三年一月一七日から同年二月五日の二〇日間および同年八月七日から同月二二日までの一六日間、西宮市鷲林寺南町二番一三号香雪記念病院で入院治療した。同病院においては、原告に対し、<1>右肘部瘢痕拘縮、<2>膣前庭部瘢痕拘縮、<3>陰核上方の瘢痕、<4>膀胱切開瘢痕、<5>尿道周辺の植皮瘢痕、<6>左右大小陰唇部分欠損、<7>右頬部不整瘢痕、<8>右下顎部不整瘢痕の各症状ありとの診断をなし、第一回目の入院においては右<1>の部分の手術、すなわち右肘部瘢痕拘縮切除をし、腹部中央部の皮膚を右肘部に移植する植皮手術を施行し、第二回目の入院においては右<2>、<3>、<5>の部分の瘢痕拘縮を切除し、左足つけ根部分の皮膚を取つて陰部に移植する植皮の手術を施行した。

4  前記こども病院の大原義雄医師は、昭和五四年一月一〇日、原告に対し、自賠責保険後遺障害の診断をしたが、これによれば、<1>外陰部変形の点については、初診時存在した外尿道孔癒着埋入、膣口前庭癒着狭窄、陰核埋入等は手術により改善をみているが、大小陰唇の左大部分と右の一部が欠損し、恥丘部の瘢痕により正常の形態を失い、発毛障害も予測され、そして直接妊娠、出産に対する障害は現状ではない見込であるが、未婚女子としての精神的負担は大なるものありといえるとし、後遺障害別等級表(自賠法施行令第二条)第九級の一六(生殖器に著しい障害を残すもの)に該当するとし、<2>四肢瘢痕の点については、四肢露出部の散在瘢痕多数のうち右肘窩上下にわたる広範囲な拘縮瘢痕は植皮により修正されているが、外観変形が残り、右等級表第一四級の四(上肢の露出面に手のひらの大きさは醜いあとを残すもの)に該当するとし、<3>顔面瘢痕の点については、左頬中央(二・二糎)および右顎下部瘢痕(七糎)で右等級表第七級の一二(女子の外貌に著しい醜状を残すもの)に該当するとし、予後の所見として「最も機能的に重視すべきは外陰部変形とその将来と思考され、これは顔面瘢痕(未処置)とともに、成長後精神的負担増大する見込」との判断を示している。

5  なお、検甲第二三号証によつて明らかな原告の外陰部の変形、腹部、左足つけ根部の瘢痕(皮膚移植の跡)の症状に照らせば、これらにより原告が将来女性として成長するにつれ多大な精神的苦痛を受けるであろうことは明らかであり、本訴において、原告が、請求原因三の8の項記載のような主張をする心情は十分に理解することができる。

四  損害

1  治療費

前記甲第一二ないし第一六号証によれば、原告の香雪記念病院における入院治療費としては、合計金一五四万七七一〇円を要したことが認められ、したがつて原告の右のうち金一一七万七〇八〇円の支払を求める請求は理由がある。

2  入院付添費

成立に争いのない甲第一七号証、原告法定代理人羽毛昭一本人尋問の結果、弁論の全趣旨および経験則によれば、原告は香雪記念病院における合計三六日間の入院期間中母親の付添看護を要し、その間一日金二〇〇〇円の割合による合計金七万二〇〇〇円の損害を受けたものと認められる。原告のこの点に関する請求のうち右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないものと認める。

3  後遺症による逸失利益の請求について

上記三の4および5認定にかかる原告の後遺症の内容、性質に照らすと、その結果その選択しうる職業の範囲が相当程度限定される等の不利益のありうることは別として、それ自体が直接に相当程度将来の原告の労働能力を喪失させるものとも断じがたく、また、右の点がどの程度原告の将来の収入に影響するかを具体的に確定することは不可能であるから、この点に関してはその間の事情を慰藉料額の算定に際して参酌するをもつて相当というべきである。

4  慰藉料

前記認定にかかる本件事故の態様、原告が受けた傷害の部位、程度、治療の経過(四回に亘る合計一四七日間の入院、再三に亘る植皮の手術)、後遺障害の内容、程度、とりわけ顔面の瘢痕とともに外陰部の変形腹部等の瘢痕は将来原告に対し計りしれない精神的苦痛を与えるであろうことが容易に推測され、その程度は実質的には原告主張のとおり自賠法施行令別表後遺障害等級表第七級一二号にいう「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に優るとも劣らない程深刻なものであると認められること、その他上記3の事情や原告の年齢など諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は金八五〇万円とするのが相当であると認められる。

五  損害の填補

原告が、自賠責保険の後遺症補償金として、昭和五五年二月二三日金四一八万円、同月二五日金四一八万円の合計金八三六万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

ところで上記四1、2および4の損害額を合計すると金九七四万九〇八〇円となるところ、これより右金八三六万円を控除すると残額は金一三八万九〇八〇円となる。

なお、右補償金八三六万円について本件不法行為の翌日である昭和四九年九月一九日から五五年二月二三日までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金は金一八五万二七七三円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額、さらには原告が自賠責保険の後遺症補償金を受領したのが後記認定のとおり昭和五五年二月であることなど諸般の事情に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金八〇万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

以上によれば、被告らは、原告に対し、各自金四〇四万一八五三円およびうち遅延損害金と弁護士費用を除く金一三八万九〇八〇円に対する本件不法行為の翌日である昭和四九年九月一九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 富澤達 本田恭一 海老根遼太郎)

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